おすすめレストラン「仙台 北辰すし」
2015年7月7日
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┃ ■ 新ニュースレター No.24(山西 様/SCD2国内分科会フェロー)
┃ (テーマ:おすすめレストラン)
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SCD2国内分科会フェローの山西でございます。私も食べることが大好きで
全国で美味しいお店を探すことに情熱を捧げているのですが、その際には、
一人でも気軽に入れるか、リーズナブルな値段か、スタッフは仕事熱心か、
そしてもちろん料理が美味しいか、などを総合的に判断して行きつけに
させてもらうか決めています。そうやって私なりの全国おすすめレストラン
リストを作っているのですが、そのリストについて、初対面のとある方と
激論になった経験談を通しておすすめレストラン紹介させて頂きたいと
思います。とある日、出張先からもどる飛行機の中での出来事です。
(心ならずも私の話には毎回飛行機が絡んでいますが)
前日、遅くまで飲み歩いていたせいで 、また戻りのフライトは朝一番と
いうことでその日の私の体調は最悪の状態だったのですが、搭乗してシートに
腰掛け、東京までの2時間弱のフライト時間をぐっすり寝て過ごし、体調回復
時間に当てることを決め込んで着席早々に目を閉じた時から話は始まります。
以下、臨場感を味わって頂きたく口語体にてお送りいたします。
「その腕時計、とても素敵ですね」
二日酔いで半ばうなだれるように最後部席で浅い眠りに落ちていた僕には、
その言葉が現実のものなのか、はたまたうたた寝のなかのまどろみの中で見て
いる夢の世界のものなのか判断がつかずにいた。薄目をあけ、その声がした
方向に目をやると、僕とは反対向きの座席に姿勢良く座る、制服姿の若い女性が
こちらをみて微笑んでいる姿がぼんやりと視界に入ってきた。僕はその時ひどい
頭痛に苛まれており、その上、 昨晩食べたお気に入りの辛麺を噴門で食い止め
るのに必死の状態であり、その声の主がキャビンアテンダントさんであることに
気付くまでしばらく時間がかかってしまった。僕はできる限りの笑顔を作って、
「ありがとうございます。数年前の海外出張の際に買った、とても思い出深い
もので、大のお気に入りなんです」
とその後の会話をこちらから促すような返答をしてしまって、ひどく後悔した。
今はできる限り目と口を開きたくないと心では思っていたはずだったのに。
もちろん、続く会話は、
「それはさぞ素敵な思い出だったのでしょうね。もし差し支えなければどのよう
な思い出でいらしたか聞いてもよろしいですか?」
となり、やれやれと思いながらも、僕は声以外の何物もこの口からは出てこない
ように必死で胃をコントロールしながら僕の右手に巻かれた腕時計を買った経緯
と、購入したとあるヨーロパの都市について簡潔に説明したものだ。 しかし、
相手は旅行を生業とするプロフェッショナルである。いかに僕も出張が多い人種
とはいえ、海外の都市についての話題で敵うはずがなく、話が進むにつれて、
やはりというべきか、僕が彼女の話を聞くことにそのほとんどの時間を費やす
ことになった。(これはこれで興味深い話でネガティブな印象は一切なかった
のだが。そしてなによりも目をつむって頷いているだけでそれなりに会話が成り
立ってしまうことがその時の僕には本当に嬉しかった)
絵に描いたような典型的な話題パターンとなってしまった僕たちの会話は、
ご多分にもれず現地の料理の話になっていったのだ。しかし、その話題に
ついては、
「私は実はあまり海外の料理が好きではなく、和食が好きなんです」
明らかに苦悶の表情を浮かべる僕に対して、さらなる会話を促すような展開を
彼女が強いてきたことに驚きながらも、仕方なく僕はこの一言でまたしばらく
聞くことに徹して黙ることができるだろうと思い
「全国飛び回っていると国内でもいろんな美味しいものありつけるでしょう?」
と投げかけ、深呼吸をして静かにしていることにした。彼女は
「はい。そうなんです。例えば先日仙台へのフライトだったのですが、いつも
行くお寿司屋さんがあるんですよ。 」
僕は相変わらず目を半分閉じて頷いていた。彼女は続ける。
「仙台駅構内にある立ち食い寿司屋さんに行くんですが、あそこのお寿司はシャ
リがきちんと立っていて、大きさもちょうどいいし、ネタも新鮮でオリジナルメ
ニューも美味しいし、何よりもリーズナブルなんです。」
と話してくれた。
ん?それは僕もよく行く「北辰すし」のことではないか?
と、混濁した意識の中で彼女に問いかけてみた。そして、その一瞬の後、僕は
閉じていた目を開けて、彼女の席の隣にある小窓から差し込んでくる太陽の光を
後光のように眩しく感じながら同じ内容を声に出して言ってみると、彼女は驚い
た様子で反応を返してきた。
「そうです!ご存知なんですか?」
知っているもなにも、僕もお気に入りのお寿司屋さんである。仙台駅構内三階、
寿司通りにあるカウンターのみの小箱の立ち喰いスタイルのお店なのだが、気取
らない雰囲気と味の良のバランスが秀逸で、僕の大のお気に入りだ。
「ええ、僕も大好きです。特にマグロ三カンセットが」
「そうですね!それに金目の炙りなんかも美味しいと思います!」
僕は、しまった!と思った。そこを突いてくるか、と。どうせなら寿司通ぶって
話そうと、金目鯛についてはもったいぶった後で話そうと思っていたのだ。その
とっておきのネタを最初に話題にあげられたことで、すぐさま僕の闘志に火が
ついた。北辰すしファン同士どちらが通なのか勝負しようじゃないか、と。その
意味ではマグロ三カンセットは先鋒としてはあまりに正攻法的な選択だったと
僕は悔いた。(もちろん、このメニューはとても美味しいのだが)
「しぶいチョイスですね。ところでリアスも美味しいと思いませんか?」
と次鋒としてマイナー路線を突いてみた。リアスとはオリジナルのセットメ
ニューでウニとイクラとアワビが同時に味わえるなんとも贅沢な一品である。ど
うだとばかり相手の反応を見ると、
「リアスですね。美味しいのですが、食材が喧嘩している感じがします」
と返してきたのだ。彼女の意見は手練れのグルメレポーター並みに的を射て
いる。なるほど、と感心しながらも、ここまでは完全の僕の劣勢であることは
明白だった。最初のマグロ三貫の選択が良くなかったのだろうか。僕は起死回生
の一手を探した。どうすれば寿司通だと思ってもらえるだろうか、と。僕は本当
はサバが大好きで、しめ鯖も美味しいですよね、と言いたかったのだが、あまり
にも平凡な答えに聞こえてしまうだろうと思い、
「シンコも好きですね。季節は限られますがあれば必ず食べますね」と通ぶって
答えた。要はコハダである。
「シンコがお好きなんですか。それは通でいらっしゃるのですね」
僕は一瞬、「やった!」と思ったものだ。おそらくは僕より10歳以上若いであろ
う女性に「通」だと言われ、年甲斐もなく素直に嬉しく思ってしまったのだ。
僕はちっぽけな自尊心を満たして、これみよがしな表情を浮かべていたのだが、
彼女が続けざまに放った一言で、僕のにわか寿司通のメッキなど完全にはげ落ち
てしまった。
「私はいろんなネタが好きですが、なんだかんだ言ってサバにもどってきまし
た。やっぱりサバが一番好きですね」
と。僕は絶句してもうこの時点で戦意喪失してしまった。攻めても守っても、
彼女は一枚上手、完全なる敗北だった。僕は先ほどの笑顔を引きつらせながら、
話題を変えた。そして新たなる勝負を挑むことにした。幸か不幸かこのフライト
は気流の悪い中を進んでおり、キャビンアテンダントさんも含め全員着席状態で
ある。話す時間は十分あるのだ。全国のすべての主要都市の食に関して僕たちは
激論を交わし、その度に僕は嫌悪感をともなった敗北感を味わい、そしてその
まま羽田に到着したのだ。僕は、このフライトで体調を回復できなかったばかり
か、精神的にもダメージを受け、散々な2時間を過ごす羽目になってしまった。
(といっても2時間しゃべりっぱなしだったというわけではない。彼女は僕を手
玉にとりながらもちゃんと仕事をこなしていたのだ。)
ちなみにこのキャビンアテンダントさんですが、後日、機内誌に顔写真入りで
グルメレポートを寄せていることに気づきました。大変な相手に勝負を挑んでし
まった、つくづくも私は孫悟空だったのでしょう。
それでも唯一勝ったと思えたのは、香川の居酒屋「みや崎」の話になった時でし
た。こちらも瀬戸内海の幸が絶品でおすすめですが、また執筆の機会をいただけ
るのであれば 全国敗北編も合わせ、皆様にご一読していただこうかと思ってい
ます。
ということで、仙台駅構内「北辰すし」さんです。その理由は名も知らぬ空飛
ぶ女性グルメレポーターが説明された通り、気軽に入れて明朗会計、それでいて
ネタもシャリもしっかりとしており、おすすめです。ぜひみなさま訪れてみては
いかがでしょうか。
(文責:山西 毅 SCD2国内分科会フェロー/ CIGRE SCD2 事務局)