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おすすめレストラン(国内外)「巨牛荘 石原本店(プルコギの向こう側)」

2022年10月26日

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 ニュースレター No.133(山西様/SCD2国内分科会フェロー) (テーマ:「おすすめレストラン(国内外)」)
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 SCD2フェロー山西でございます。

 以前韓国式のビジネス会食についてこのニュースレターに投稿したことがあるのですが、その中でも焼肉の場合にはオモニ(お母さん)といわれる女将的存在の女性が肉を運び、焼き、そして食べ頃になるタイミングも教えてくれることをご存じの方も多いと思います。大抵の場合炭火やガス火に焼き網や鉄板を置くスタイルなのですが、ハサミで一口大に切った肉が良い焼け具合になってくると丸い形状をしている網の外側円周に沿って肉をぐるっとドーナツ状に配置してくれるのです。これはテーブルを囲む全員が気兼ねなく箸を伸ばせる(大体自分の担当エリアがわかる)ことと、また火力が弱いところに置くことで美味しい頃合いを長引かせるためです。複数人が同じ肉を狙って箸で火花を散らすことも、レア焼きが好きな人だけが多く食べてしまうこともない、日本の焼肉システムの不平等感とは一線を画す焼肉先進国の画期的な仕組みだと感心したものです。さて、そんな調理器具の丸い形状を活かした韓国肉料理について最近驚いたことがあり、今回のニュースレターでそのお店(プルコギ:韓国風すき焼き/焼肉)についてご紹介したいと思います。

 巨牛荘というその店は両国(大相撲が行われている両国国技館のある場所)にあり、とある縁で知り合ったイタリアンレストランのシェフ、ソムリエ、某料亭の副料理長に私を含めたメンバーで訪れました。そのシェフが絶賛するプルコギを食すために集まったその道のプロたちです。(私は当然料理人ではありませんが美食好奇心は自称プロ並みということでご容赦ください)。古民家のような佇まいの店内に入るとすぐに2階に通され靴を脱いで小上がりに案内されました。この歳になってくると座椅子があるとはいえ板の間に直に長時間座るのはかなり腰にくるのですが、それもまたこの店内のシックな雰囲気を作りあげている要素であり、またそうまでしても食べる価値のあるプルコギということで自分を納得させたものです。一通り飲み物や軽いつまみを嗜みながら歓談が続いた後、ガスコンロと鉄鍋が運ばれてきてようやくプルコギの始まりです。
 丸い鉄鍋は中央部分が盛り上がっており、そういった意味ではジンギスカンの鉄鍋に近い形状で、中央部分で焼いた肉汁が熱せられたツケダレと絡まりあって滴り落ちるのを受け止める溝が外周状に作ってあります。この山状の部分にオモニが肉を無造作においてささっとかき混ぜながら熱を加えた後無言で去っていくのですが、時折こちらの鍋の様子を確認しに来つつ、トングでかき混ぜたりひっくり返したりするのです。我々の談笑の合間を縫うように登場するタイミングは見事という他ありません。そして、その度に我がシェフがしきりに何かをオモニに尋ねているようでした。肉が焼ける音と周りの雑然とした騒音で私にはそのやりとりがよく聞き取れないのですが、彼女はその度にダメだというふうに首を横に振っておりそのすぐ後にプルコギの追加皿が運ばれてくるのです。キムチや冷奴などのつまみ、またその他の部位の焼肉も少々あり、とても食べ切れる量のプルコギではありません。それでもシェフは我々に完食を強要するのです。私は普段温厚なシェフが半ば強引に薦めてくることに少し戸惑いながらも拒みきれずまだまだ鉄鍋に残っているプルコギを腹に流し込みました。座椅子の席での体勢ということもあって増幅された満腹感と戦いながら何故にそうまでして食べ切らなければならないのか不思議に思ったものです。
 何度かそんなことを繰り返した後、突然オモニが笑顔で頷きました。シェフも嬉しそうに我々一同を見渡します。その数分後、オモニは茹でて湯切りをした状態のうどんを3人前ほど白い皿に乗せて持ってきました。この満腹状態でなぜにうどんかと張ったお腹をさすりながら、うどんを鍋の外周に敷き詰めていくオモニの手先を見つめていました。先のプルコギから溢れ出た煮汁、焼き汁がたっぷりと溜まった外周部分に浸されたうどんは見る間に茶色に染まっていきます。具は何もありません。ただただプルコギ後の風景がそこにあるだけです。その汁を吸い込んだうどんとその鉄鍋外周がカラメルの焦げたような色、粘度、匂いを放ち始めるその瞬間にオモニは素早い手捌きで各人の小皿にうどんを取り分けたのです。

シェフは勝ち誇った顔で

「これが巨牛荘のメインです!」

と言い放ったのです。
この巨牛荘が特別たる所以はプルコギそのものよりむしろこのうどんだと。

シェフが説明を続けます。このうどんは食べたプルコギの量に応じたうどんの量しか注文させてくれないのだと。そしてその交渉をシェフとオモニはずっとやっていたのです。オモニは一番おいしくなるプルコギとうどん分量を決めていて、この食べ方を守るためにうどんの量を自由に注文させてくれません。3人前のうどんを注文するには9人前のプルコギが必要なのです。そしてその量をこなしてこそ(プルコギもとても美味しいので「こなす」というのは適切な表現ではないかもしれないのですが)辿り着いたうどんの美味しさといったら、数多くの焼きうどんをこれまで食べてきてついに究極形に巡り合ったと言っても過言ではないほどです。そしてこの焼きうどんを食べ切ったときの満足感と、帰り道の満腹感たるや。

そんなわけで、両国の巨牛荘 石原本店です。

 絶品のプルコギと、その向こう側にのみ創造されるあの究極の焼きうどん、機会があればぜひお試しください。ちなみに掘り炬燵や、もっといえば1階にはテーブル席もあるのですが、あの達成感を味わうために敢えて座椅子を選んでみるのもお薦めです、私は次回絶対テーブル席にしますが。。

(文責:エクストラホップネットワークス(株) /山西 毅)